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   通りに面しているテニスコートとは、建物を挟んで反対側に当たる位置に、鳳家のプールはあった。


   青く澄んだ水がこぼれそうに輝いている五十メートルプールが、まず、宍戸の目に飛び込んできた。

   その隣には、鳳の言う通り、真っ白な泡がボコボコと出ている丸いジャグジーがある。


   「へええ、スゲェなぁ。けっこうデカイじゃねぇか? 」

   宍戸は、子供の頃に通っていた家の近所の市営プールと、学園の授業用のプールしか

   見た事は無かったが、鳳家の物は、そのどれとも遜色無いものだった。とても個人の所有物

   とは思えない。


  「どうぞ。宍戸さん、自由に使ってくださいね。」

   プールのデカさに驚いている宍戸に対して、鳳は、笑いかけながら、そう言った。


  「俺も、汗をかいていますから。宍戸さんと一緒に、少し泳ぎたいですね。」

   鳳は、そう言うと、突然、宍戸の目の前で、着ていたテニスウェアを脱ぎ始めたのだった。


   鳳は、スポーツマンらしく、良く鍛えられた身体をしている。露になっってゆく日焼けした

   上半身は、胸板も厚く、腕は宍戸の倍はありそうな太さをしている。


   両手も大きく、指もピアノを弾くだけあって長かった。その指で、ズボンも取り去り、黒いボクサー

   パンツも下げてしまい、プールサイドの隅に投げてしまった。


   宍戸は、一糸まとわぬ鳳の姿に目を見張った。


   彼とは、今まで、何度か抱き合った事がある。しかし、このように、昼の太陽光の下で、

   全身を見たのは初めてだった。


   宍戸は、目のやり場に困ってしまった。

   今まで、何度か、この逞しい胸に抱かれた事を思い出してしまったからだ。


   いつも、鳳の激しい動きに翻弄されてしまい、宍戸は、わけがわからなくなり、最後は、

   快楽のせいで許しをこいながら、大きな泣き声をあげてしまうのだ。


   鳳は、そのまま、五十メートルプールへ飛び込むと、驚きで立ち尽くしている宍戸に手を大きくふった。


  「宍戸さん、水が冷たくて気持ち良いですよ! 早く来てくださいね。一緒に泳ぎましょう。」

   うろたえている宍戸に、鳳がそんな声をかけてくる。


   宍戸は、そんな自分の過剰な反応を、鳳に知られたくなかった。彼の身体を見ただけで、

   夜の行為を思い出して、興奮してしまったのだ。


   宍戸は、素知らぬフリをすると、クルリと鳳に背を向けて、自分もテニスウエアを脱ぎ始めた。


   まさか、全裸になってプールで泳ぐなんて、宍戸は先ほどまで考えてもいなかった。


   しかし、ここで恥ずかしいからと言って拒んでは、余計に自分だけ意識しているみたいで、

   おかしな話なのだろう。鳳は、特に気にする様子も無く、パシャパシャと水音を上げながら、

   くつろいているのだ。


   宍戸は、思いっきり良くテニスウエアの上着を脱ぎ、鳳と同じように隅へと投げた。

   汗をかいているので、素肌に張りつき脱ぎずらかった。


  次に、ズボンに手をかけたが、そこで、宍戸はある事に気がついてしまった。

   背後に、鳳の強い視線を感じるのだ。


   先ほどまで鳳が立てていた水音もしなくなり、プールサイドは静まりかえっている。

   遠い樹木で鳴いているセミの声だけが、小さく聞こえているだけだった。


   宍戸は、ゆっくりと、ズボンを脱ぎ、下着も下ろした。


   その指先は震えてしまった。


   鳳の視線が、宍戸の首筋から背中へ注がれ、そこから、下肢へと移動する。

   まるで、熱波を浴びせられるように、彼の視線の動きを感じるのだ。


   (長太郎が、俺を……。ずっと見ている。)

    自分が先ほど、全裸の鳳の身体を見ていたように、今度は、自分の身体を逆に

    見られていると思い、全身が真っ赤に染まってゆくのが、宍戸には感じられた。


   宍戸は、素早く身体を動かすと、ジャグジーへと飛び込んだ。



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